白鷺の剣~ハクロノツルギ~
「きゃあっ!」

白鷺の構えた刀が、一瞬だけ青白く光って見えたのだ。

なに、今の光……!

それが見えたのはどうやら私だけではなかったようで、岡田さんも眼を見開いて白鷺の刀を凝視した。

誰もが動かないまま十数秒が過ぎ、やがて岡田さんが刀を鞘に納めた。

「俺の刀が怯えた。さすがは妖刀、白鷺一翔。
今日は帰るが……また来る」

岡田さんはそう言うと、何故か私をじっと見た後踵を返した。

彼が戸口から消えてしばらくの間、白鷺は刀を構えたままだったが、やがて息を吐き出すとそれを神棚へと戻した。

やっぱり、そうだ。

あの殺気。

多分間違いない。

きっと彼は幕末の四大人斬りと恐れられたうちの一人……岡田以蔵だ。

全身から汗が吹き出す感覚がして、私は自分を抱き締めた。

それから白鷺を見上げる。

白鷺は知っているのだろうか。

彼が幕末の人斬りだということを。

「大丈夫か?」

白鷺が膝をついて私の顔を覗き込んだ。

「……うん」

何でもないと言ったように頷いたが、私の額から汗が流れた。

それを見た白鷺が、指で私の顔を拭う。

「知り合いなのか?」

……云わないほうがいいよね。

未来を話すのはきっとよくない。

「刀を見てびっくりしただけ。私の暮らしていた世界は、刀を持ち歩かないから」
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