白鷺の剣~ハクロノツルギ~
白鷺は私が頭を打たないように、手を後頭部に回して守ってくれていた。

浅い川の中で抱き合う私と白鷺は全身ずぶ濡れで、私は思わず白鷺の胸に手のひらを押し付けて距離を取った。

綺麗な顔だな、白鷺は。

男らしくて、凛々しい。

白鷺の短髪からは雫が滴り、それが私の唇へと落ちた。

「柚菜」

艶やかな声で、白鷺が私を呼んだ。

なんだ、めちゃくちゃドキドキするんだけど。

「……なに?」

せせらぎの音が何だか急に遠くに聞こえる。

返事をしたのに白鷺は私を見つめるだけで、何も言わなかった。

その時、

「……ん、……っ」

唇に柔らかい感覚が広がり、私は思わず眼を見開いた。

そう強引でもなく、白鷺の舌が私の唇の水滴を優しく奪い、その後は滑り込むように口内に入る。

白鷺のキスがまるで自然で、私はすぐに眼を閉じた。

彼の胸を押していた手の力が抜けて、水の中にパシャンと落ちる。

なんで?

白鷺はどうして私にキスするんだろう。

そして、私は?

どうして拒まなかったの?

私の前途を阻む、冷たいはずのこの男と、どうして?
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