白鷺の剣~ハクロノツルギ~
白鷺はフウッと笑った後、真顔で私に訊ねた。

「拓也をまだ好きなのか?」

私はギクリとたじろいだ。

「……どうして、彼の名前を……」

白鷺は酒を注ぎながら続けた。

「倒れていた日にうなされていて、しきりと拓也と呼んでいたから」

私はホッと息をついてから、視線を床に落とした。

「拓也を好きだったよ、ずっと。先に心変わりしたのは拓也。仕事先で好きな人が出来たんだって」

あんなに離婚の事に敏感になってたのに、何故か今の私はまるで他人事のように思えた。

「で、離縁を?」

私は白鷺を見ずに頷いた。

「うん。だって愛してくれてない人と一緒にいても仕方ないでしょ?別れるしかない。もう一度振り向かせたいとか、そこまで思わなかったし」

「……では、坂本龍馬は?何故か坂本龍馬の話をしている柚菜は嬉しげな顔をしていたから」

「私の時代は、幕末の英雄なの、龍馬は」

「幕末?」

私はギクリとして白鷺を見た。

「……いや、その……ごめん、」

白鷺が首を振った。

「……この間の、岡田とかいう浪人は?」

「彼は……知らない」

あながち、嘘じゃない。

だって、彼が本当に岡田以蔵とは限らないし。
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