白鷺の剣~ハクロノツルギ~
白鷺の顔からはなんの気持ちも読み取れなかったから、私は自分の返事が正しいものだったと理解した。

なのに何だか胸が重くて凄く変な気分だったから、私は彼を見ることが出来なかった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌日宍粟から帰ってきた宗太郎は、日本刀の材料となる千種鋼の話や、あちらの職人なんかの話を白鷺と話し合った後、私の傍まで歩いてくると太陽のような笑顔で私を見た。

「柚菜、俺がいなくて寂しかったか?!」

「寂しかったよ」

私が笑顔でそう言うと、

「荷物下ろしたら、酒だ。一緒に飲もうぜ」

「うん。お風呂は?」

「街で入ったきた」

「昨日ね、白鷺と山間の綺麗な川に行って魚を獲ったの。今から焼く準備するね」

「ああ。俺は作業場に材料を下ろしてくる」

宗太郎に頷いてから家の前に流れている小川に向かおうとすると、ふと白鷺と眼が合う。

ギクリとするほど冷たい眼差しだ。

「……白鷺、火をおこすの手伝って」

「やけに嬉しそうだな、宗太郎が帰って」

「そりゃ嬉しいよ」 

「男らしい顔つきだし格好いいし、性格も明るくて優しいし、いい感じだからか」

「へ?」

氷のような眼差しを向けたまま、白鷺は続けた。

「だからわざわざ、宗太郎の為に魚を獲りたいなどど言い出したのか」

……なんなんだ、白鷺に一体なんのスイッチが入ったんだ。

「そんなのどーでもいーから、手伝ってよ」

「俺は作業がある」

言うなり私の脇を通り、白鷺は宗太郎の後を追って行ってしまった。

なに、今の。

白鷺の不機嫌な顔が、何だか私のせいみたい。

「大体、白鷺は私が嫌いなんだよね、すぐに怒るし」

私は独りなのを幸いと、ブツブツ文句を言いながらアマゴのカゴを川から引き上げた。

それからクルリと川に背を向けて玄関先に置いてある七厘を取りに行こうとした時、真後ろにいた誰かにぶつかりそうになり、慌てて顔をあげた。
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