白鷺の剣~ハクロノツルギ~
「……この脇差はいつの頃のやつ?」

お祖父ちゃんは僅かに眉を寄せた。

「六さんに見てもらわなまだはっきり分からんけど、お祖父ちゃんは幕末やと思とるんや」

六さんとは、村瀬六道さんといい、お祖父ちゃんの幼馴染みでありながら宮司さんで、日本刀の鑑定士でもある。

……幕末……。

ちょっと待って。

白鷺という名を『白鷺城』にちなんで名乗っていたとしたら……。

私は慌ててお祖父ちゃんに言った。

「けど、鎌倉時代に白鷺城はなかったやろ?築城は1346年やもん。鎌倉時代は1333年に終わってる。築城中としても、『白鷺城』と呼ばれるようになったのはずっとずっと後やし。となると白鷺って名前は偶然で、播磨の刀工やないかも……」

私がそう言うと、お祖父ちゃんは首を横に振った。

「何らかの理由で後の代の刀工が、流派名を変えた可能性もあるし、偶然白鷺という言葉を使こたんかもしれん。記録がないから分からんのや」

「何らかの理由?!」

「白鷺という刀工の記録が今のところは見つかってへんから分からんけどな。妖刀騒ぎが起きたんかも知れんし、それまでは流派を名乗ってなかったんかも知れん。とにかく地肌からも分かるように、確実に同じ流派や」

その時、眼の端で何かが光った。

……ん?

反射的にそちらを見たが何もない。

ただ、古びた木箱がひとつ。

「……お祖父ちゃん、今、なんか光ったんやけど……あの箱の隙間……」

私がそう言うと、お祖父ちゃんは僅かに目を見開いて口を引き結んだ。

「あの箱、なに?」

お祖父ちゃんは大した物ではないと言ったようにサラリと返答した。

「……あの中に入っとんはな、剣(つるぎ)や。誰が作ったんかも分からん。 建御雷神(タケミカヅチノカミ)て彫ってあったわ」

建御雷神(タケミカヅチノカミ)?

聞きなれない単語に、私は眉を寄せた。
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