白鷺の剣~ハクロノツルギ~
土間に降りた私に宗太郎が近付くと、クシャリと頭を撫でてくれた。

「少しは元気になったみたいだな」

「……うん、ありが……痛っ!!」

グイン!とのけ反りそうになって、私は思わず部屋の縁にドスンと座った。

仰け反った拍子に、私の髪を引っ張りながら冷たく見下ろす白鷺が視界に入り、ギクリとする。

白鷺は、私の髪から手を離すとムッとしたまま口を開いた。

「器を洗ったら行くぞ。着替えろ」

言い終えるとツンと横を向く。

また怒ってるよ……。

ニヤニヤ笑いながら私を見つめる宗太郎に小さく溜め息をついて見せてから、私は前の小川へと向かった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「じゃあな!酒とスルメを忘れんじゃねえぜ!」

刀作りの下準備があるからと、宗太郎が留守番を買って出たから、私は頷きながら手を振って白鷺と砂利道を下った。

この時代の初夏の風は私の住んでいた時代より断然涼しい。

私は21世紀のジットリとした風を思い出しながら、白鷺の後ろを歩いた。

その時、白鷺が立ち止まって私を振り返った。

途端にバチッと眼が合う。

脇の樹木から垂れ下がった枝の葉がやけに濃くて、白鷺の白っぽい着物を淡い緑に変えた。

蝉に加え、名前の分からない虫達の声がやけにうるさい。

「早く来い」
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