白鷺の剣~ハクロノツルギ~
「建御雷神(タケミカヅチノカミ)ゆうのは、日本の神様や」

……そうだっけ。

分かんないなあ。けど神様の剣って、昔から有名だよね。

ほら、『神代三剣(かみよさんけん)』とか。

『神代三剣』っていうのは日本の神話の中にでてくる剣で、特にメジャーな剣の事だよね。

天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)
布都御魂(ふつのみたま)
天羽々斬(あめのはばきり)

この三剣を神代三剣と呼ぶのだけど、私が覚えているのは、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)……別名『草薙の剣(くさなぎのつるぎ)』のお話だけ。

……確か、スサノオが、出雲の国でヤマタノオロチを退治して、尻尾を切った際にスサノオの剣の刃が欠けて、その尻尾から出てきた剣が草薙剣(くさなぎのつるぎ)だと言われているんだよね。

……スサノオは知ってるけど、 建御雷神(タケミカヅチノカミ)は知らない。

私はしばらく無造作に置かれた箱を見つめていたけど、やがてそれに近付きながら、口を開いた。

「……開けて見てもいい?」

「 やめとき」

切り返すようにお祖父ちゃんは言葉を返した。

そして白鷺の脇差を丁寧にしまうと、チラッと私を見た。

「祭事に使う神剣や。刃は先端しかついてないし、誰が作ったかもわからん。その上、焼きも入ってないし鋳物やな、多分。それになんかおかしいんや、その剣は。その時代に鋼を鋳造する設備なんかないはずやのに、鋼なんやなあ……銅剣ならまだしも」

……ふーん……。

鋳造品で焼き入れもしてないなら、切れ味も強度も期待出来ない。

「さ、今日はこのぐらいにして柚菜ももう休み」

お祖父ちゃんはそう言うと、作務衣のポケットから鍵を取り出した。

「鍵するで」

「あ、うん」

私は後ろ髪を引かれる思いで部屋から出た。
< 8 / 197 >

この作品をシェア

pagetop