白鷺の剣~ハクロノツルギ~
白鷺、白鷺。

白鷺の背中がグニャリと歪む。

仕方がないよね、だって私は……。

私は大きく息を吸い込むと決心を固めて口を開いた。

「さよなら白鷺……大好きだったよ、いつの間にか」

眼の端に、白鷺が振り返るのが見えた気がした。

けれど私は身を翻して土間に飛び降りると、入り口の引き戸を開けて外に飛び出した。

こんな気持ちのまま明日の朝なんて迎えられない。

こんな気持ちのまま白鷺の傍にいられない。

ミカヅチ……!!

ミカヅチ!!

私は剣を強く握りしめて、空を仰いだ。

「ミカヅチ!!」

その時、涙で滲んだ大きな銀色の月が剣にキラリと反射した。

「きゃあああ!」

「柚菜っ!」

白鷺に呼ばれた気がしたけど、剣から放たれた月色の光に私の全身は包み込まれ、直後に物凄い風が巻き起こったために、私は白鷺に返事をすることが出来なかった。

激しい光と風に包まれているうちに、意識が薄れる。

強烈な眠気に耐えることが出来ない。

ああ、私……多分帰るんだ、元の世界に。

白鷺、白鷺……。

薄れゆく意識の中で、私は白鷺を思い続けた。
< 89 / 197 >

この作品をシェア

pagetop