白鷺の剣~ハクロノツルギ~
◇◇◇◇◇◇◇◇

二時間後。

……眠れない。

全然眠れない。

お酒の酔いもすっかり覚めてしまい、私は二時間前に交わしたお祖父ちゃんとの会話を思い出していた。

『白鷺という刀工の記録が今のところは見つかってへんから分からんけどな。妖刀騒ぎが起きたんかも知れんし、それまでは流派を名乗ってなかったんかも知れん』

鎌倉後期のものだという白鷺の太刀……。

大業物を作る腕がありながら流派を名乗らないなんて、有り得ない。

茎(なかご)に彫られた白鷺の名の下に、本当はどういう名が彫ってあったのか。

それとも……最初から名を彫っていなかったのか。

そしてもしもお祖父ちゃんの説が有力だとしたら、後に『白鷺』と彫り込んだ理由は何だろう。

本当に妖刀騒ぎのせいなんだろうか。

妖刀とはいわくつきの不吉な刀の事で、『村正(むらまさ)』が有名。

村正とは伊勢の国桑名、現在の三重県桑名市で活躍した刀工の名前なの。

……もしかして白鷺の刀の中にも妖刀と呼ばれる類いのものがあったのだろうか。

そう思いながら眼を閉じるも、脳裏に浮かぶのはあの脇差だった。

太刀も素晴らしかったが、私はあの脇差が忘れられなかった。

手に触れた時の、シットリとした感覚。

舞い散る羽根を思わすような地肌と、その滑らかさ。

そして良い日本刀特有の、全体的に粘りのあるの質感。
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