そこにいた
「また言えなかったね。」
……気づくと私のそばに椅子を置いて座ってる。
「何を・・・・・・?」
「本当は、僕より武田先生の方がいいでしょ?」
ストレートに言われ、ドキッとする。
亮先生…私の本心を見抜いてる?
確かに武田先生の方がいいんだけど…。
こんな風に言わせてしまった。失礼だったかな…。
そんな想いも頭をよぎる。
「そ、そりゃあ、長年武田先生に診てもらってたし。」
言い訳に聞こえるかもしれない。
余計なことだったと、言って後悔する。
本当に言いたいことは言えないのに、言わなくていい余計なことは出てしまう。
なんてモヤモヤしていれば、
「そんなに気を遣ってると、体に良くないよ。」
「・・・・・・。」
そんなことを言われ、それ以上何も言えない。
「ハハ、黙っちゃったね。」
「……。」
下を向いてこれ以上何も言われないように防御する。
「ごめんごめん。
ところで…目が真っ赤だけど。
昨日はどこに言ってたの?」
そんなことを言われて、慌てて目を触る。
まだ腫れてる……?
泣いていたことがバレて、なんとも言えないくらい恥ずかしい。
それでもどうして泣いていたのか言ってしまったら、あの場所にはもう行けない。
あ、でも……もうあそこには行きたくないかも。
いや、二度と行かない。
「目はどうしたの?」
そういうと私の頬を両手で挟み、ジッと見つめられる。
ヒャッ!?近いっ!
思わず顔を背ける。
「ん?」
そんな私に、どうしたの?って顔で返される。
散々私の気持ちを探り当てて…こういうことは分からないのか。
「別に・・・・・・。」
とりあえず、その場をやり過ごした。