そこにいた


点滴に薬を入れ終わると、ベッド脇の椅子に座って私の額に乗ったタオルを優しく押してくる。





冷たいタオルから伝わる優しい手……。




なぜだか心も温まる。






「・・・・・・魔法の手・・・・・・?」






気づくと口づさんでた。





「ん?」





聞こえた!?





「何でもないです・・・・・・。」





「何それ~?」





悪戯な目で聞いてくる。
たぶん、聞こえてたんだろう…。




でもその悪戯な目が、




可愛い仔犬、トイプードルみたい……。






「プッ」






想像したトイプードルのくりくりとした目と、先生の目が同じでつい吹いてしまった。




主治医に仔犬は失礼だね。






「何一人で喋って笑ってるの?」





「何でもないでーす。」 




頭が痛いのも、少し和らいできた。




「ふふ。初めて見たかも……。





綾ちゃんの笑顔。」





「『綾ちゃん』って!」





笑った顔と言われて、頬をさする。
綾ちゃんって言われたことに、どことなく親近感がわいて嬉しい気持ちにもなる。





「だめ?武田先生もそう呼んでたし。
看護師たちもそう言ってるし。」  





「べ、別にいいですけど・・・・・・・。」





ただただ嬉しい…。










「……さっきから、何考え事してんの?
まだ熱は下がりそうにないから、しっかり目を閉じて寝ててよ。





目の腫れも、熱が出た原因も気になるけど、今はそんなことより熱を下げることが第一。





治ったらしっかり、話聞くから。」





話さないよ・・・・・・。






「じゃあ、また来るから。





ちゃんと何かあったら、ナースコールするんだよ!!!」






「・・・・・・はい。」






「ハハ。その調子だと、する気ないな。





じゃあ、後でね。」





そういうと部屋を出て行った。





自分の気持ちを言えば楽になるかもしれないけど、それを周りが知ったら辛い気持ちにもなるかもしれない……。





それなら言わないで心に秘めておきたい。
< 20 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop