そこにいた
「私たちはね……昔、付き合ってたの。」
やっぱり、そうだったんだ……。
「あなたはね、
本当は、私と武田先生の子供なの・・・・。」
「…………。」
子供……私が、武田先生の子供……。
お母さんと武田先生が知り合いだったことは勘付いたけど、私が……武田先生の子供…………?
私の記憶にあるお父さんは、一体誰だったのだろうか……。
どこかしら重荷の取れた顔をしているお母さんと、心配そうな顔の武田先生。
武田先生の子供……?お父さんは一体……。どちらも理解できないでいる私。
血が繋がっていないのに私をあんなに可愛がってくれたお父さんのことが、気になって仕方なかった。
それを汲み取ったのか、お母さんが一呼吸してから口を開いた。
「最初から話すわ。
私と先生いや剛(つよし)さんは、あなたが生まれるずっと前から、近所で育った幼馴染だったの。
そして高校生のころ、お互いを意識し始めて、交際を始めたわ。
それから優秀だった剛さんはね、医大を卒業した24歳のときに日本の大学病院ではなくて、アメリカの大学病院に留学したの。
そして、私はそれを機に剛さんとは別れたの。
医大生のころかろ、剛さんは忙しくって、私とほとんど会えなかったわ。
だから、私の気持ちは冷めてしまったの。
そして、アメリカに旅立った後、付き合い始めたのが、あなたを育ててくれたお父さんだったの。
あなたがお腹にいたことに気づいたときは、私が剛さんと別れて、お父さんと付き合い始めたところだったの。
私はどうしたらわからなくて、毎日泣いていたわ。
それに気づいたお父さんが、二人で育てようって言ってくれたの。」
一気に話すお母さんに、ついていくのに必死な私。
「先生は、知らなかったの?」
武田先生をチラッと見て尋ねる。
「そう、先生は何も知らなかった。お父さんが私に育てようって言ってくれて、私もそう思ったから、剛さんのことは忘れて、私はあなたを生んでお父さんと育てることを決めたから、剛さんには何も言わなかったの。」
「でも今は知ってるよね。
先生はいつから私が先生の子供だって気づいたの?」
いつもは見せない不安そうな先生の顔。
そして、ゆっくり口を開いた。
「私は、君の担当医をして数ヶ月して気づいたんだ。」
一呼吸した後、
「最初、君の担当をした時に久しぶりに会ったさつきを見て、結婚をして子供もいた事にとても驚いたんだ。
そのときはとても残念でならなかった……。
だって、私はさつきを想いながらアメリカに渡ったんだから。
アメリカの大学病院に行ってからは、音信不通で、日本に帰ってからも全く連絡が取れなかった。
それから10年近くが経って君が倒れて運ばれてきたとき、君のそばにいたさつきを見て、複雑な気持ちだった。
それから少しして……
君のお父さんが亡くなった。
そのときに、君の年齢や誕生日をカルテで見て、もしや・・・・・と思ったんだ。
だけど、私にはそれを気づいても、さつきにそれを言う資格はなかった。
君は亡くなったお父さんとさつきの育てた子供だから。
立派に育ててくれた君のお父さんには、本当に頭が上がらない想いだった。
だから、私は君が一日でも早く完治できるように医者として、本当の父親として、影から見守ることしかできなかった。」
「でも、お父さんも私も同じ病気……。」
「それは偶然なんだと思う。」
私の頭はそこまでの話を理解するのに、いっぱいいっぱいだった。
話し終えた先生は私が心配なのか、不安そうな顔は変わらない。
その隣ではお母さんは堂々としている。