そこにいた
実の父親は、武田先生だった。
そういわれても、もう何も驚かない。
武田先生には私が病気になったころから、そしてお父さんが死んでしまってから、さらに強く、
父親のように想って接していたから。
よく入院中、武田先生と散歩をしていると、私たちを見た患者さんには、
「娘さんですか?」
って聞かれていた。
私は、冗談で
「はい、武田綾子です。」
って笑いながら答えていた。
そういうと周りが笑う姿がうれしかった。
でも、きっとそう私たちに声をかけてきた患者さんは、
私と武田先生の顔がよく似ていたから、そう言っていたのかもしれない。
私は、そのときの武田先生の表情を全く見ていない。
愛想笑いを耳にしていただけだった。
きっと、すごく複雑な気持ちだったと思う。
それに・・・・・・・・・・・・・・・。
私が自分勝手な行動で、ジュースを飲んでしまったせいで、
私は・・・・・・・・・・。
移植を余儀なくされた。
私は・・・・・・・・・・。
なんて最低な言葉を言ってしまったのだろう。
一番言ってはいけない相手に。
「なんで移植なんかしたのよ。」
「移植なんてしたくなかった。」
謝らなきゃ。
誰が私の父親でも関係ない。
武田先生は、担当医以上に父親以上に、自分を犠牲にしてまでも私に尽くしてくれたのに。