そこにいた
「綾ちゃん?どうしたの?」
医局の前の廊下から、まだちらほらと残っている医局の先生を覗いていたところに、後ろから声がして振り返ると、武田先生が私服で立っていた。
帰るところだったのか……な。
いや、そうじゃなくて……。
言わなきゃ……。
「あ、あの・・・・・。
ご、ごめんなさい。
武田、先生・・・・・。ごめんなさい。
私、先生に、ひどいことを言いました。
本当にごめんなさい。」
私は、ごめんなさいという言葉だけで精一杯だった。
「綾ちゃん、わざわざそれを言いに、ここまで歩いてきたの!?」
「う・・・・・ん。
だって、だって……。
武田先生が私のことを嫌いになって、娘と思ってくれなくなっちゃったらどうしようと思って・・・・・。」
そう言いながら流れる涙を手で拭う。
「大丈夫……そんなこと思わないよ。
綾ちゃんは、僕の大切な娘だよ。」
私はその言葉を聞いて、安心をしたのか、ひざの力が抜けて、床にひざまついた。
「あ、綾ちゃんっ!!!」
慌てて武田先生が私の元に駆け寄ってきた。
私はもう一つ言わなきゃと思い、武田先生に抱きついた。
「私に肝臓をくれて、ありがとう。」
そう小さくつぶやいた。
「う・・・・・。」
抱きしめた武田先生の顔を見ることはできなかったけど、声を聞いて、涙ぐんでいるんだとわかった。