一番星にキスを
焦った顔の藍木君が私の手を掴んだまま、キョロキョロと辺りを見回して離さない。素でこういうことするとこも彼の人気の理由だと思う。そうこうしている間に、藍木君の友達がぞろぞろとやってきた。
「お前、なにやってんだよ。乗り気じゃなかったくせにナンパか?」
普段、藍木君と仲のいい目立つ人達がからかってくる。何人かいる男の子の後ろには見たことない女の子が何人かいた。
「ちげーよ、クライメイトの甘楽さん。ぶつかってケガさせた。ちょっと、傷洗いに近くの公園行ってくる」
「は? えー、まじかよ」
げんなりした顔をしてこちらを見る。その目は少しの疑いを持ったような気がしてなんだか気分が良いものじゃない。まるで、わざとぶつかったんじゃないのかというような目だ。
彼は藍木君を手招きすると小さく耳打ちした。
「お前が居ねーと女の子誘った意味ねーじゃん。まじでむかつくけどお前は顔がいいからいないとダメなの。わかる?」
ただし、耳の良い私には全て丸聞こえだ。これは空気を読んで立ち去った方が良さそう。早く帰らないと時間がないし。
「私は大丈夫だから気にしなくていいよ。家まで近いし」
落とした荷物を拾い、砂を払った。折り曲げる動作をすると傷が痛い。家帰ったら消毒して絆創膏貼ろう。こんな傷、大袈裟にしなくてもすぐに治る。
「おーっ、甘楽さん話わかるー! ありがと!」
「うん、邪魔しちゃってごめんね。藍木くん、心配してくれてありがとう」
私にしては珍しく愛想を良くして、にっこりと笑って頭を下げた。そうすれば、彼はこれ以上何も言えないし、あらぬ誤解を受けて恨みを買うこともない。
顔を上げた時、藍木君は何か言いたげだったけれど、友達がそれを制した。私は気付かない振りをして帰り道を歩きだす。
クラスメイトの誰よりも、学校の誰よりも、輝く君に届く人は僅か一握り。その中の一人になるなんて私は微動も思わない。別に、王子様に夢中になる女の子達と私は違うとかじゃなくて、話すことはあってもそんなに大きく深く関わることなんてないと思うんだ。
だって、彼は陽が沈んで一番最初に見える星のように、一際輝く人だから。私にとって彼はおとぎ話に出てくる王子様と変わらないくらい遠い遠い存在。これ以上、関わらないに越したことはないだろう。