ドS王子と平凡少女
「初恋……」
いつの間にか口からこぼれていた。
「よくわかったね。」
さっきまで厨房にいたはずの甘野さんが隣にたっていた。
「そのケーキの名前は初恋の香り。」
初恋の香り……
だから、こんなにも切ないんだ。
きっと先輩にフラれる前の私だったら、こんなふうに感じなかった。
ここまでこのケーキが意味している事を気づけなかった。
「甘酸っぱい青春の味。今の私にはすごく……すごく……」
言葉が続かなかった。
先輩との思い出が走馬灯のようにかけ巡って、涙が止まらなくなったせいだ。
それでも私の手は止まらずケーキを口に運ぶ。
口に入れる度に先輩の事を思い出して切なくなった。
「美味しいです……本当に……美味しすぎて私にはもったいないくらい……」
そう言いながら涙を流す私を榊くんは黙って見守ってくれていた。