♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~③
春子と礼士の二人の前に現れたもの。それは一棟の社殿だった。

辺りを樹々で覆い尽くされ、わずかに射し込んでくる木漏れ日。

それに照らされ、文字通り神秘的に輝くその様が、あたかも神様の存在を身近に感じさせるかのようであった。

小さいながらも、荘厳さを感じさせるその社殿の前で、亮は無言のまま立っていた。

そんな亮に気付かれまいと、たえ子は社殿と向かい合って左側の、樹々の陰に隠れて、再び亮の様子を窺い始めた。

春子と礼士の二人も、それにならって、社殿と向かい合って右側の樹々の陰に隠れて、亮とたえ子の二人の様子を窺う事にした。

しばらくの間、亮は黙り込んだままであったが、なんの前触れもなく突然、その口を開いた。

「…あれは運命だったのか。去年の十二月一日。

喫茶UNICOであの二人を見かけたのは…




…あの真実を知った以上、事を起こさずにはいられない。

だけど、勘違いするなよ。これは単なる復讐じゃあないんだ。

君の名誉を回復する為の戦いだ…」

(ふ、復讐⁉︎)

(しっ!口を閉じてハルちゃん!

まだ何か言おうとしているよ…)

「…今度の、一月二十五日の全学年集会の日。

整列した時、丁度僕と多野たえ子は横並びになる。

そして、多野たえ子の持ち物からタバコが発見され、そこからが勝負だ。

美加ちゃんには、ものすごく迷惑をかける事にはなってしまうが…

…仕方がないよな。

可愛い、より、愛しい、の方が勝ってしまったんだから。

従姉(いとこ)の…城田結の無念は、僕が晴らす!」

(えっ!谷本さんは、城田結さんのいと…

…モゴモゴ!)

(だっ、だから静かにしてって、ハルちゃ…)

「うん⁉︎

何か今、誰かの声がした様な…」

ーまずいっ!ー

亮は、その声が聞こえた方に、そろり、そろりと近づいていった。

春子と礼士の二人は、絶体絶命!と思ったが、意外にも亮が向かった先は、二人の潜んでいる逆側…

…つまりは、多野たえ子の潜んでいる側だった。

そして、そこで亮が発見したもの、それは一匹の野良猫だった。

「…なんだ、猫か。

おい、今の話は、誰にも内緒だからな…って、まあ、猫が人の話を理解できる訳ないか」

そう言って亮は、元来た道を引き返していった。

ほっと、一息。

安心した春子と礼士。そして樹々の陰からそっと出ようとした春子。

しかし、それを素早く礼士が止めた。

「えっ?礼士先ぱ…」

(まだダメだ!多野たえ子がいる)

そう言って礼士は、樹々の陰から出て来ようとするたえ子を指差して春子に示した。

そして、亮が完全に姿を消した事を確認できたのか、樹々の陰から完全に姿を現したたえ子。

たえ子は、口を開いた。
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