♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~③
「もう、どうでもいいから、早くアイテム渡しなさいよ!

…物的証拠としては、声だけでは不十分。

映像もセットでなければ、となれば、そのアイテムとは…」

「さすがだね、乙女座。

俺が愛する女だけの事はある」

そう言ってヴァンパイア礼士が春子に手渡した物。

それは、身体に身につけるタイプの小型のビデオカメラだった。

「ワイヤレスマイクもセットしておいたおかげで、多少のノイズはあるが、音声もバッチリだ。

…中身、見てみたくはないか?」

「結構よ。見なくったって、何が収められているかぐらい解っているから。

…それに、その内容も含め、私の最終の推理が当たっていたから、コレを持ってきてくれたんでしょ」

そう言って、持ち物検査用のカバンではなく、すぐに取り出せるように、その小型のビデオカメラをスカートのポケットの中に入れた春子。

その様子を見つめながら、フッ、と笑いながら、ヴァンパイア礼士は春子に言った。

「気張り過ぎて、ミスんなよ」

「ミスなんかしないわ。

…谷本さんに、きちんと向かわせてあげる。

たえ子さんではなく、本当に向かい合いたい、真の敵に」

そう言って、毅然とした態度で、体育館の扉をくぐった春子。

「…さあて、今年初の一大イベント、大いに楽しませてもらうか!」

ヴァンパイア礼士もそう言うと、ふんふん♫と鼻歌交じりに、軽快な足取りで体育館の扉をくぐった。




「…毎年の恒例行事ではありますが、改めて本校の風紀を理解してもらう為に、この場を借りて持ち物検査を行いたいと思います。

皆さんにとっては普通だと思っていても、学校に持ち込んではいけない物もありますので」

そう言って、この学校の風紀委員会のまとめ役でもある徳田先生が、三年生の列から順に、先頭から持ち物検査を始めた。

ちなみに、体育館を正面と見て、ふかん図(上から見下ろした図)で言えば、右から左にかけて、三年生、二年生、一年生の列として、持ち物検査用のカバンは、各生徒めいめいの左側に置くように指示された状態で検査は始められた。

それ故、本来であれば、たえ子の左隣りに位置していた亮は、いい頃合いでタバコの箱をたえ子のカバンに忍び込ませる事ができていたのだが、例の亮の神社参りをつけていたたえ子によって、未然に防がれてしまった。

そして、徳田先生が自分の番を過ぎた事を確認してから、たえ子は亮に小声でこう言った。

(悪いけれど、美加に全てを賭けているから、アンタに邪魔はさせないわ)

驚いた表情をしながらも、自分の計画がたえ子になんらかの拍子で漏れてしまった事を悟った亮。

その表情を見て、勝った、とでも言いたげに不敵な笑みを浮かべたたえ子だったが、その笑みは、すぐに困惑と焦りの表情に変わった。

「うっ、な、なんだこれは!

た、タバコなんか持ってきて、何を考えているんだ!

君、名前は!」

「…谷本亮、です」

「き、君は普段から喫煙を?

…黙っていては分からないじゃないか!

何か言いなさ…」

「な、何かの間違いです!彼がタバコを吸うなんて考えられません!

そうよね、谷本君…

⁉︎

…も、もしかしてアンタ…」
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