♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~③
日も暮れ、夜の闇が強まりかけていた頃、僕の自宅の近所にある歩道橋。
普段から、この時間帯になると人気が極端に少なくなるこの場所の上で結ねえが独り、うつむいて声を上げる事もなく大粒の涙をボロボロとこぼしていたのを見てしまった。
沈みゆく夕陽のわずかな光に照らされて、何故かその一人の少女の悲しむ姿が、妙に色っぽく、愛おしい感じがした。
それ以来、結ねえには申し訳ないけれど、彼女が人知れず一人泣きする姿を、僕は遠くから盗み見をしていた。
そして月日が流れ、小学生から、中学生、そして高校生になった彼女。
その頃になると、身体つきも、大人の女性に近づくその様と合わせて、一人の少女の悲しむ姿を眺める事が、僕の中で何故か背徳感を募らせる事にもつながり始めていた。
そしてあの悲劇があった。
結ねえは、多野たえ子が犯した喫煙事件による連帯責任によって、一生懸命になって勝ち取った、かるた大会の出場権利を無残にも奪われてしまった。
その晩、彼女は、亡くなった。
夜遅くに結ねえがいなくなったものだから、結ねえの両親を含め、僕の両親も心配していた。
年頃の女の子が、夜遅くに、しかもその日は大雪が降った日。
どこに行ったのか?ケータイも置きっぱなしで姿を消したものだから、みんながひどく心配していたけれど、僕は彼女がどこにいるのか知っていた。
「今頃、あの歩道橋の上に結ねえは…」
僕は、歩道橋に向かった。すでに雪は止んでいたが、車や自転車などでは除雪をしないといけないぐらいに雪は積もっていた。
滑らないように、黒く変色している部分や、歩行によって押し固められアイスバーンになった部分を慎重に避けつつ、ようやく歩道橋にたどり着いた時、果たして結ねえはそこにいた。
「まあ、起こってしまった事は、仕方のない事だわ」
と、家では僕達に気丈に振る舞っていた結ねえだったけれど、もう二度と手に入らない、かるた大会出場権利。
いつもと違い、声を出しながら泣いていた、結ねえ。
よほど悔しかったんだと、その時僕は思わず、いつもは遠くから見つめるだけだった結ねえのそばまで駆け寄ってしまった。
そして、うかつにも、結ねえが僕に対して今までひた隠しにしていたむき出しの心に、僕は触れてしまった。
「…大好きな君に、喜んでもらいたかったよ、亮…」
「ゆ…結ねえ…」
ハッと、顔を上げて僕をしばらく見つめていた結ねえ。
そして不意に、顔を真っ赤にしながら、僕が登ってきた方と逆方向の階段を急いで下っていった。
そして、そこで足を滑らせて…
僕は急いで救急車を呼んだけれど、結ねえはすでに…
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「谷本さんっ!」
と、突然、自分を呼ぶ声に亮は、思わずハッとして後ろを振り返った。
普段から、この時間帯になると人気が極端に少なくなるこの場所の上で結ねえが独り、うつむいて声を上げる事もなく大粒の涙をボロボロとこぼしていたのを見てしまった。
沈みゆく夕陽のわずかな光に照らされて、何故かその一人の少女の悲しむ姿が、妙に色っぽく、愛おしい感じがした。
それ以来、結ねえには申し訳ないけれど、彼女が人知れず一人泣きする姿を、僕は遠くから盗み見をしていた。
そして月日が流れ、小学生から、中学生、そして高校生になった彼女。
その頃になると、身体つきも、大人の女性に近づくその様と合わせて、一人の少女の悲しむ姿を眺める事が、僕の中で何故か背徳感を募らせる事にもつながり始めていた。
そしてあの悲劇があった。
結ねえは、多野たえ子が犯した喫煙事件による連帯責任によって、一生懸命になって勝ち取った、かるた大会の出場権利を無残にも奪われてしまった。
その晩、彼女は、亡くなった。
夜遅くに結ねえがいなくなったものだから、結ねえの両親を含め、僕の両親も心配していた。
年頃の女の子が、夜遅くに、しかもその日は大雪が降った日。
どこに行ったのか?ケータイも置きっぱなしで姿を消したものだから、みんながひどく心配していたけれど、僕は彼女がどこにいるのか知っていた。
「今頃、あの歩道橋の上に結ねえは…」
僕は、歩道橋に向かった。すでに雪は止んでいたが、車や自転車などでは除雪をしないといけないぐらいに雪は積もっていた。
滑らないように、黒く変色している部分や、歩行によって押し固められアイスバーンになった部分を慎重に避けつつ、ようやく歩道橋にたどり着いた時、果たして結ねえはそこにいた。
「まあ、起こってしまった事は、仕方のない事だわ」
と、家では僕達に気丈に振る舞っていた結ねえだったけれど、もう二度と手に入らない、かるた大会出場権利。
いつもと違い、声を出しながら泣いていた、結ねえ。
よほど悔しかったんだと、その時僕は思わず、いつもは遠くから見つめるだけだった結ねえのそばまで駆け寄ってしまった。
そして、うかつにも、結ねえが僕に対して今までひた隠しにしていたむき出しの心に、僕は触れてしまった。
「…大好きな君に、喜んでもらいたかったよ、亮…」
「ゆ…結ねえ…」
ハッと、顔を上げて僕をしばらく見つめていた結ねえ。
そして不意に、顔を真っ赤にしながら、僕が登ってきた方と逆方向の階段を急いで下っていった。
そして、そこで足を滑らせて…
僕は急いで救急車を呼んだけれど、結ねえはすでに…
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「谷本さんっ!」
と、突然、自分を呼ぶ声に亮は、思わずハッとして後ろを振り返った。