囚われた瞳【琴子さんanother story】番外編2UP
車が静かにスタートし、スイスイと走る。

あまり渋滞もなく、大仏さまのいる高徳院に着いた。

車を駐車場に止めて、少し歩き、仁王門をくぐる。

「お、大きい…」

大仏さまを見上げる私を、荻野君が「そうだね」と微笑んでくれる。

「奈良の大仏さまには屋根があるのに、こっちは屋根がないね。雨ざらしだよ」

「大仏殿だね。昔はあったんだけど、何度も災害に遭って壊れちゃったらしいよ」

「へえー、そうなんだ……あっ!入り口があるよ」

「はいはい」急ぐ私に、笑いながらついてきてくれる。

大仏さまの胎内に入ってみると、プラスチックで補強された箇所もあって、不思議な感じがした。

外へ出ると、大仏さまの丸い背中が見える。

「ねえ、荻野君。大仏さまって猫背だね」

「うん。鎌倉時代に作られた仏像は、猫背気味のスタイルが流行ったんだよ。他の仏像も猫背だよ」

「そうなんだ…荻野君って、植物のことだけじゃなくて、仏像のことにも詳しいんだね。博学だ…」

チラッと見えた荻野君の耳が少し赤い。





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