Dear Mr.サイコパス
混沌-3
「ねぇねぇ」
普段聞き慣れない声に洋平は最初、自分が話しかけられていることに気づかなかった。基本的に1人でしか行動しない洋平は毎日生徒で賑わう食堂にて昼食をとるのは好きではなかった。賑わっているとは言え、料理の味が良いわけでもない。というか、かなり悪い。洋平の啜るうどんの麺はゴムの様で、汁はただ塩っぱかった。
「城田クン...だよね?」
顔をあげると二人の女子大生が立っていた。名前は知らない。が、顔はなんとなく知っている。恐らく同じ学部の、同じ学科の女生徒だろう。一人は派手に赤く髪を染めていて、もう一方は黒髪だったが化粧のせいか、地味な雰囲気でもなかった。
自分の名前を女性に呼ばれたのは洋平が記憶している限り、高校3年の時、担任に呼ばれた以来だった。話しかけてきたのは赤髪の方だった。
急な質問に目をそらしたまま黙って二、三度頷いた。
「城田クンってさ、悟クンと友達なの?」
「.........さ、悟?」
洋平も聞いたことない名前だった。
「さっき喋ってたじゃん、2限の時」
今度は黒髪の方だ。見た目に似合わず口調に優しさがない。
今日は朝起きてから会話をひとつしかした覚えがないため、この女子大生達が誰のことを言っているのか理解するのに時間はかからななかった。
「あ...えっと...友達じゃない」
洋平はうつむき加減で答えた。この受け答えが周りに聞こえることは、自分に友達がいない事を周りに知らしめていることに等しいような気がした。頬が熱くなっていくのを感じた。早急に二人がこの場から去って欲しい気持ちでいっぱいになった。
「えーそうなのォ?残念だなー」
「ほらー。だから言ったじゃん」
その時点で、洋平はこの女子大生達が洋平目当てで自分に話しかけてきた可能性が〇パーセントであることを確信した。
赤髪が気を使ってか、洋平の方に向き直り
「悟クンってさ、学校たまにしか来ないから女の子で連絡先持ってる人1人もいないんだよー。城田クンがお友達なら教えてもらおうと思ったんだけど」
洋平はその返答に何を言えばいいのかわからなかった。勇気を振り絞ったものの、女性と話す機会を滅多に持たない洋平にとって、ちらっと目を合わせ不自然に頷くのが精一杯だった。
大して長い沈黙ではなかったが、なぜか気まずさはこの上ないものだった。
洋平はいたたまれない、とはまさにこのことだなと思いながらうどんをすすった。その動作で2人はなんとなく洋平の気持ちを察したのか、
「友達になったら教えてねェ」
という捨て台詞を残しそそくさと退散した。
洋平もその場から一刻も早く去りたかった。隣の席の男子四人グループの目線が痛かった。直視した訳では無いが、洋平には四人ともがニヤニヤしているように感じた。うどんの残りの最後のふた口を無理に啜り込み、汁も静かに飲み干した。御盆を返却口に返し、食堂を出た。
朝起きて、誰とも話さずに就寝する1日が珍しくない洋平にとっては、午前中だけで三人と会話したことになにかむず痒いものを背中に感じていた。
社会学部の学舎に戻り、早足で二階の3限のある教室へ向かった。階段を一段ずつ登りながら、
(あいつ、やっぱりモテるんだな...)
そんなことをぼんやり考えていた。最後の段を登りきりイヤホンを外した時、不意に誰かに左肩を叩かれた。
そこに悟がいた。
普段聞き慣れない声に洋平は最初、自分が話しかけられていることに気づかなかった。基本的に1人でしか行動しない洋平は毎日生徒で賑わう食堂にて昼食をとるのは好きではなかった。賑わっているとは言え、料理の味が良いわけでもない。というか、かなり悪い。洋平の啜るうどんの麺はゴムの様で、汁はただ塩っぱかった。
「城田クン...だよね?」
顔をあげると二人の女子大生が立っていた。名前は知らない。が、顔はなんとなく知っている。恐らく同じ学部の、同じ学科の女生徒だろう。一人は派手に赤く髪を染めていて、もう一方は黒髪だったが化粧のせいか、地味な雰囲気でもなかった。
自分の名前を女性に呼ばれたのは洋平が記憶している限り、高校3年の時、担任に呼ばれた以来だった。話しかけてきたのは赤髪の方だった。
急な質問に目をそらしたまま黙って二、三度頷いた。
「城田クンってさ、悟クンと友達なの?」
「.........さ、悟?」
洋平も聞いたことない名前だった。
「さっき喋ってたじゃん、2限の時」
今度は黒髪の方だ。見た目に似合わず口調に優しさがない。
今日は朝起きてから会話をひとつしかした覚えがないため、この女子大生達が誰のことを言っているのか理解するのに時間はかからななかった。
「あ...えっと...友達じゃない」
洋平はうつむき加減で答えた。この受け答えが周りに聞こえることは、自分に友達がいない事を周りに知らしめていることに等しいような気がした。頬が熱くなっていくのを感じた。早急に二人がこの場から去って欲しい気持ちでいっぱいになった。
「えーそうなのォ?残念だなー」
「ほらー。だから言ったじゃん」
その時点で、洋平はこの女子大生達が洋平目当てで自分に話しかけてきた可能性が〇パーセントであることを確信した。
赤髪が気を使ってか、洋平の方に向き直り
「悟クンってさ、学校たまにしか来ないから女の子で連絡先持ってる人1人もいないんだよー。城田クンがお友達なら教えてもらおうと思ったんだけど」
洋平はその返答に何を言えばいいのかわからなかった。勇気を振り絞ったものの、女性と話す機会を滅多に持たない洋平にとって、ちらっと目を合わせ不自然に頷くのが精一杯だった。
大して長い沈黙ではなかったが、なぜか気まずさはこの上ないものだった。
洋平はいたたまれない、とはまさにこのことだなと思いながらうどんをすすった。その動作で2人はなんとなく洋平の気持ちを察したのか、
「友達になったら教えてねェ」
という捨て台詞を残しそそくさと退散した。
洋平もその場から一刻も早く去りたかった。隣の席の男子四人グループの目線が痛かった。直視した訳では無いが、洋平には四人ともがニヤニヤしているように感じた。うどんの残りの最後のふた口を無理に啜り込み、汁も静かに飲み干した。御盆を返却口に返し、食堂を出た。
朝起きて、誰とも話さずに就寝する1日が珍しくない洋平にとっては、午前中だけで三人と会話したことになにかむず痒いものを背中に感じていた。
社会学部の学舎に戻り、早足で二階の3限のある教室へ向かった。階段を一段ずつ登りながら、
(あいつ、やっぱりモテるんだな...)
そんなことをぼんやり考えていた。最後の段を登りきりイヤホンを外した時、不意に誰かに左肩を叩かれた。
そこに悟がいた。