Dear Mr.サイコパス
混沌-4
桂は時々、なぜ自分がこの道に進んだのかわからない時がある。中学、高校では柔道一筋で、その他に特に何の取り柄もなかった。高校卒業後は親父の勤め先の印刷工場ででも働こうかと考えていた矢先、当時の担任の男性教諭にその真面目さとストイックさを見込まれてか、警察官を勧められた。警察官の試験については、四ヶ月の間に付け焼刃の知識を詰め込んだだけで試験当日も
(落ちたら印刷工として働いてやるさ)
ぐらいの気楽な心構えだった。本番の問題にたまたま自分がヤマを張った部分が出題され、分からないところには適当に答え、たまたま当たったものも少なくなかった。
受かった一報があった時、親は喜んだが、桂自身、警察官になるんだという実感も、義務感すらもなかった。印刷工場で働くよりは、給料はいいであろうことからそのまま警察官になり、なんとなく与えられた業務をこなし毎日を過ごしている内に目的がわからなくなった。彼が35の時である。すべてが順調だった訳では無いが、桂の現場での洞察力や過去の実績を考えればまだまだこれからの出世も臨める地位にあった。突然辞表を提出し地元の徳島に帰ろうとした時、当時東京ですでに探偵事務所を開いていた田原にそのかつての名刑事としての能力を買われ、引き止められた。そして現在に至る。収入は減ったが、組織的に動くことを義務付けられる警察よりは自分のしょうに合ってる気がしていた。
そんなことを考えながら、助手席から外を眺めていた。
「なあ、石田」
桂の嗄れた声が沈黙を破る。
「お前は、警察官になりたくてなったか」
「どうしました?何かありましたか」
先輩の珍しい石田自身についての問いに頬が少し緩む。
「俺ははじめから警察官になりたかった、と思いますよ」
「なんでだ」
「なんで...ですか。」
信号が黄色になりかけたところで車は停止をした。石田は尊敬するかつての先輩刑事の感情を確認しようと顔にちらと目をやったが桂は姿勢を変えず、外を眺めたままだった。
「強くなりたかった、と言うか...人を守る力が欲しかったからですかねぇ。小さい頃からそんな存在に憧れ、自分もいずれ憧れられたいと思っている内にいつの間にか警察官を目指してました」
石田はその、軽い照れ笑いを隠すようにバックミラーに視線を移した。
「警官なんて、そんなに強くない」
力なく零れた呟きは、桂の無意識のうちの精一杯の言い訳だった。石田にその声が届いたかどうかはわからない。青信号を確認し、運転席の使いっぱしりは再び車を発進させた。
(落ちたら印刷工として働いてやるさ)
ぐらいの気楽な心構えだった。本番の問題にたまたま自分がヤマを張った部分が出題され、分からないところには適当に答え、たまたま当たったものも少なくなかった。
受かった一報があった時、親は喜んだが、桂自身、警察官になるんだという実感も、義務感すらもなかった。印刷工場で働くよりは、給料はいいであろうことからそのまま警察官になり、なんとなく与えられた業務をこなし毎日を過ごしている内に目的がわからなくなった。彼が35の時である。すべてが順調だった訳では無いが、桂の現場での洞察力や過去の実績を考えればまだまだこれからの出世も臨める地位にあった。突然辞表を提出し地元の徳島に帰ろうとした時、当時東京ですでに探偵事務所を開いていた田原にそのかつての名刑事としての能力を買われ、引き止められた。そして現在に至る。収入は減ったが、組織的に動くことを義務付けられる警察よりは自分のしょうに合ってる気がしていた。
そんなことを考えながら、助手席から外を眺めていた。
「なあ、石田」
桂の嗄れた声が沈黙を破る。
「お前は、警察官になりたくてなったか」
「どうしました?何かありましたか」
先輩の珍しい石田自身についての問いに頬が少し緩む。
「俺ははじめから警察官になりたかった、と思いますよ」
「なんでだ」
「なんで...ですか。」
信号が黄色になりかけたところで車は停止をした。石田は尊敬するかつての先輩刑事の感情を確認しようと顔にちらと目をやったが桂は姿勢を変えず、外を眺めたままだった。
「強くなりたかった、と言うか...人を守る力が欲しかったからですかねぇ。小さい頃からそんな存在に憧れ、自分もいずれ憧れられたいと思っている内にいつの間にか警察官を目指してました」
石田はその、軽い照れ笑いを隠すようにバックミラーに視線を移した。
「警官なんて、そんなに強くない」
力なく零れた呟きは、桂の無意識のうちの精一杯の言い訳だった。石田にその声が届いたかどうかはわからない。青信号を確認し、運転席の使いっぱしりは再び車を発進させた。