星降夜
「ごめん」
柊くんはそれっきり何も言わなくなって、あたりには白い息と湖面に静かすぎるほど静かに光る月だけがごくたまに揺れていた。
私は靴の裏がひんやりと冷たく冷えてくるのを感じていた。
ただお互いに、こんな風に何も言わない時間でさえも、同じ星を見つめることさえも、もう二度とないと言うことがわかっていたから、何も言わずにいたのだと思う。
その言葉が最後になってしまうのがわかっていたからだ。
どちらとも立ち上がらないでじっと座ったまま、その透き通る空気を感じていた。
柊くんは奥手だ、だからキスも2回しかしたことが無い。
私はどちらのキスもよく覚えている、初めての方は寒くて、冷たくて、今日みたいなキスだった。
私はぽた、と膝の上に落ちた涙を見て、弱いな、と思った。
言う言葉もすべて決めてきた。
伝え残すことがないように、何度もなんども繰り返した。
なのに伝えたいことは伝わったのか永遠にわからないままに、きっと彼の心の中からも消えていってしまうのだと思うと、それが悲しかった。
そうなのだと思う。
このやりようのない気持ちが、寂しいのだと思う。