恋する想いを文字にのせて…
「あのね……」


先生は遠慮がちに話し始めた。

その話を聞きながら、彼女が何度も言いかけて止めていた家族とは、彼のことだったんだ…と初めて知った。


途中でお茶を淹れながら先生と萌子さんの話は続いた。

彼女の話だけでなく、先生の漫画に対する人生観のようなものまで伺った。


その話を聞いた後、彼女はしくしく…と泣きだしたのだそうだ。

帰る道すがらに見えた涙の跡は、きっとその時のものだった。



誰もが自由に生きたいと願う時がある。

でも、彼女の場合はそれが全て裏目に出た。



感情の赴くままに生きることが怖くなった。

津軽芽衣子のセレクトブックを見つけ、買うことですら怖いことに繋がる気がした。


……なのに、思い余って俺に手紙を書いてしまった。

どうせ一方通行なのだからいい…と、出した手紙に返事が届いた。



奇跡のようなものを感じて再び手紙を送った。

俺に送った最初の手紙が特別なものだと言ったのは、彼女にとって、やっと掴みかけた幸せの種のような存在だったからだ。


「でもね……ここへ来る朝、例によって発作が起きたらしくてーー。小野寺さんと文通し続けることが怖くなったんだって言ってたわ。自分が望んで起こした行動の全てが不幸につながっていくと思ったらしいのよ。幸せに慣れてなくて、単に臆病風が吹いているだけなのに…」


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