恋する想いを文字にのせて…
「本当に帰ってしまうの?寂しくなるわねー……」


保健室を尋ねると、先生はそう言って残念がられた。


「やっと純君が私に懐いてくれるようになったのに……」


保健室の隅で遊ぶ我が子に目を向けて、小さな息を吐かれた。


「すみません。木下先生にはとてもお世話になったのに……こんな形で田舎に引っ込むことを決めてしまって……」


「それは構わないけど……ご実家の方達は大丈夫なの?…事情を聞いて驚いたりしてません?…今までとは違う環境に変わっていって、純君がパニックを起こさなければいいけど……」


急な予定変更に気持ちが付いていかない我が子をよく知っている先生は、そう言って不安がった。

この学校に先生が赴任してきた頃は、正にパニックが連日のように続いている時でとても大変だった時期を知っている方に、その心配は無用だとはとても言えなかった。


「パニックを起こしたとしても、今度は私が働かずに家にいることもできるから大丈夫です。両親には事情も簡単に説明しておきましたし、向こうからも『とにかく気にせず戻るように…』と返事が届きました。後は来週転校の手続きを済ませて、この学校を去るだけです……」


それを息子が受け入れてくれるかどうかが気になった。

一番のネックはやはりそこで、今回もノロノロと準備を進めてしまった。


……性急にはできなかった。

大きな変化を嫌う彼を、必要以上に不安にさせたくなかったから……。



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