恋する想いを文字にのせて…
でも、これ以上のんびりとしていては、自分の決心が鈍ると判断した。

あのラストレターも送ったことだし、もう思い残すこともない。



1日も早く故郷へ向けて足を運ぼう。

血の繋がりがある人達になら、息子自身も甘えられるかもしれない。

直ぐには受け入れて貰えなくても、いずれは必ず解って貰えると信じて進む以外に道はない。



これが最善の選択だと思う。

私にとっては最悪でも、我が子にとって最善ならばそれでいい……。



「じゃあ学校へ来るのは今週いっぱいが最後なのね。純君ともう会えなくなるのなら、今のうちに精一杯私の存在をアピールしておかなくちゃ。向こうへ帰ってしまったら、私のことなんて忘れてしまうかもしれないもの」


木下由加利(きのした ゆかり)という名の保健師は、そう言って息子に近付いていった。

笑顔で話す彼のことを学校中のどの先生達よりも理解して下さった。

パニックから離れる場所として、保健室のベッドの隅を与えてくれた。

余計な言葉かけをせず、混乱させることもなく見守ってくれた。



その場所があったからこそ、この1年間、学校で過ごせた。


全てが不幸ではないと思えた矢先に、彼と出会った。


こんな自分でも幸せになれるんだ…と錯覚しかけたけれど……。


(やはり、それも一瞬のことに過ぎない……)


……出会えたことを後悔はしていない。

例え別れる運命にあったにしても、一緒に居られる間、あんなに心が満たされた瞬間はなかったから……。



< 127 / 179 >

この作品をシェア

pagetop