恋する想いを文字にのせて…
足の震えを感じながら、目の前に佇む人に近付いた。

そうしながら、少しずつ純也を後ろに隠した。



「お母さん?どうしたの?」


不思議そうに聞く彼の声に気づいた人が振り返った。

紛れもなく見たことのある人物に、わなわな…と胸が震えた。




「来未……」



懐かしい声が名前を呼んだ。

その声をかき消すように、思わず顔を背けた。



「純……行きましょう」


手を握りしめながらその横をすり抜けようとした。

相手はそんな私達の前に立ち塞がり、じぃっと我が子を見つめている。




「……あの時の子か?」



その質問に胸が痛くなった。

認めたくない思いが働いて、ぐっと奥歯を噛んだ。





「………違う……」



その一言を言うのが精一杯で、とにかく早くその場から逃げ出したかった。

なのに、相手は執拗に言葉を投げかけてきた。


「そうか?どう見てもよく似てる気がするけど?俺の小さい頃に……」


「気のせいよっ!!」


怒鳴りつけた私の声に、息子がビクッとして顔を上げた。

ぎゅっと握り返してきた手の力に、ハッとして彼を見下ろした。



大きく開かれた瞳の中に、不安と戸惑いを浮かべている。

恐怖にまで至っていないうちに、早く修復しなければ大変なことになってしまうーーー。



「純くん……お家に入っててくれる?」



鍵を渡そうとした。

でも、我が子はそれを断固拒否して手を離そうとはしなかった。


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