恋する想いを文字にのせて…
「ヤダ!お母さんの側にいる!」


四年生とは思えない幼さで、ぎゅっと体にしがみつく。

呆れる様な眼差しでそれを見つめ、その人は私に問いかけた。



「俺の子じゃなければ誰の子だ?言ってみろよ」





ーーー彼が出て行った時、私は既に中絶もできない状態だった。


そんなことができるような金銭的な余裕すらもなかった……。



息子の目線にまで膝を折った人が、ニヤッと笑いかけた。

怖がる子供は私の後ろに隠れながらも、その人のことをじっと見つめている。



「……名前は?」


そう問われて、息子は小さな声を発した。



「純也。最上 純也…」


素直な我が子を呪った。

相手が誰かを知りもせず、簡単に名前を告げてしまうとはーーー。



「純也か…。いい名前だな…」


ニッと微笑む人の気持ちが分からず、完全に息子を後ろへ隠した。



「何しに来たの……」


既に関係もない人と、話をするのですら虫唾が走る。

相手は折っていた膝を伸ばし、私に向かってこう言った。


「…金を貸して欲しいんだ。今度、画廊で個展を開けることになって。少しだけ資金が足りない…」


「ふざけないで!何を馬鹿なこと言ってるの⁉︎ そんな余裕が私にある筈ないでしょう!」


「…そうか?お前が今度、実家に戻るという噂を田舎の友人から聞いたぞ。引越し代くらい送られてきてるだろう?お前の家は、代々作り酒屋を営むほどの名家なんだから」



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