恋する想いを文字にのせて…
彼は、私の手紙を読んだのだ。

その内容を確認したくて、きっとここへ現れた。


たまたま最悪の場面に出くわして、知らん顔をできずに口を挟んだ。


そのおかげで、私と息子は難を逃れることができたのだ……。



「何かお礼をしたいところですが、お返しするものが何もありません。誠に、申し訳ございません……」


更に頭を低めた。
地面に足の着いた我が子は手元を離れ、ぎゅっと彼の体にしがみ付いた。



「純くん…!」


焦って手を伸ばした。
彼はその手を制して、息子と目線を合わせるようにしてしゃがみ込んだ。


滅多と人の目を見ない我が子が、その時だけは彼を見た。

優しい目元の人が目尻を下げると、息子も同じように表情を柔らげた。


「純くんと言うのか。初めまして。おじさんは小野寺 漠と言います。お母さんの知り合いで…少しだけお話がしたいんだけど、いいかな?」


「いいよ!」


元気のいい声が上がった。
小野寺さんは純也の頭を撫で、「ありがとう。君はいい子だね」と付け加えた。



「お母さん、鍵を貸して!」


振り向いた我が子は手を伸ばし、その掌に鍵を乗せた。


「後で来てね!」


約束する様な言葉をかけて、アパートの敷地へと走り込んで行った。


ランドセルを背負った後ろ姿が弾んでいる。


この数年間、見せたこともない背中だったーーー。



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