恋する想いを文字にのせて…
血飛沫や血溜まり……。

傷を負って、折り重なるように死んでいた両親の姿。


警察の制服と鑑識という文字の入ったジュラルミンケース。


乱れた布団の皺と荒らされた室内……。


物色された様な部屋の片隅で、ただ茫然と血の気が引いていく思いだけを持ったーーーー。



「何が起きたのか一目瞭然のはずだったのに、俄かには信じられなくて………目の前に倒れている両親にすら、近づけない感じでした……」



誰かと警察の者に尋ねられ、「一人息子です」と名乗った気がする。


事件の概要を説明されても尚、受け止めるとこもできなかった。



ーー犯人は同じ町内に住む男だった。

無職の野郎が金欲しさに両親2人だけの住まいを襲った……。

最近越してきたばかりの野郎で、人のいい母はそいつのことを気に掛けていたのに…と老夫婦は語っていた。



「きっと…うちと間違えたんだと思うよ…。老人の家に忍び込んだつもりが違っていた…。パニックになって、持っていたナイフを振り回したんだろう…。大きな叫び声がして、直ぐに警察を呼んだんだけど……間に合わなくてね………」


隣家のおじいさんはそう言って悔やんだ。

両親を刺した男は、今ものうのうと生き延び、刑務所内で無期の懲役に服している。



……裁判の為に何度も地元と都内を行き来した。

悔しさや恐ろしさから逃げだすように仕事をし続けていた矢先、無理が祟って体を壊し入院してしまった。

その後は仕事も変わり、今の出版社に勤め始めた。


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