恋する想いを文字にのせて…
「今は幼い子供でいるからこそ、私1人が犠牲になればその日は何とか治まります…。協力してくださる方もゼロでは無いし、そういう方々のお世話になり続けていくのも考えない訳ではありませんでした。でも………」



この言葉を言うのは、極力避けたかった。

口が裂けても言いたくなくて、これまでずっと我慢し続けた。



けれど、この誠実な人に嘘をついたりごまかしたりするのは良くない。

自分の苦しい過去を明かしてくれた人に、同じように返してあげないとーーーー。



「親としてだけでなく………娘として、子供として………親に甘えたくなったんです………。あの日、家族中の反対を押して飛び出したのに、『帰ってきていい』と手紙を寄せてくれた…………その母に会って………もう一度きちんとお詫びをして生き直したい……。河原の石ころのように、ただ周りの人の顔色を伺う人生に流されることになってもーーーー」



辛さを抱えてでも、足を向けるのだ…と決めた。


自分が親になった日から、私の幸せは求めない方がいいと思った。


望んで行ってきたことは全て、願いとは逆方向にしか進んでいない。


その現実と共に生きてきた10年間を考えれば、故郷での針の筵など容易いものでしかない。



とにかく、息を殺して生きていくだけ。

息子の幸せを見届けるまで、自分の想いなど口が裂けても語れない。

目の前にいる人にですら、その思いの全ては語らないようにするのだーーー。


< 141 / 179 >

この作品をシェア

pagetop