恋する想いを文字にのせて…
14通目。桜色の便りは故郷から……
『小野寺 漠 様、その後いかがお過ごしですか?

あっという間に3月になってしましましたね。

こちらへ戻り、早ひと月が過ぎようとしています。』



最上来未からの便りが届いた日、俺は津軽芽衣子先生の自宅へと向かっていた。
揺れる電車内で広げた便箋は、淡い桜色をしていた。


『都内と違って、故郷の寒さは格別でした。

数年ぶりに味わう雪の多さに少し戸惑う日もありましたが……私も純也も、風邪一つ引かず元気で過ごしています。


実家では、麹の匂いや湿った湯気の雰囲気にほっと心を癒されている毎日です。

母の手料理に舌を打ち、子供の頃を思い出すこともあります。


小野寺さんはどういう生活ぶりでしょう?

相変わらず、オフィスで寝泊まりされているのでしょうか?

津軽先生の3冊目のセレクトブックの刊行が決まったという知らせを頂き、いても経ってもいられずお便りを出してしまいました。


今度こそ、あの最高傑作を世に送り出して下さいね。

くれぐれも津軽先生にそうお伝え願えれば…と思います。』



「くっくっくっくっ……」


熱弁を振るうかのような文字の踊り具合に笑ってしまった。
あの作品以上の人気作が、まだ沢山埋もれているのに……と思った。



『学年の変わる4月から純也を支援学級のクラスに入れようか…と考えています。

通常の学級でも授業についていけない訳ではありませんが、やはりそれなりの知識を身に付けている先生にお任せした方が、本人のパニックも少なくて済むのでは…と、家族中で相談して決めました。



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