恋する想いを文字にのせて…
16通目。遥か、空の彼方に
電車を降りると、潮の香りが漂った。

海から吹いてくる冷たい春風に、彼女の巻き髪がなびいている。


「きれいな場所…」


段々畑の向こうに広がる大海原に目を細め、彼女は吐息のような言葉を漏らした。


「来未さん、行こう!」


声をかけると、思い出したように走り出す。
その手をぎゅっと握り、恋人気分で歩き出した。


故郷の駅に降り立ったのは、かれこれ5年ぶりくらいだろうか。
法事の案内状も無視し続けていたから、もしかしたらもっと前だったかもしれない。


懐かしさと言うよりも恐怖を覚えながら改札を抜けた。

あの惨事の日とは、季節さえも違うのに動悸がしてくる。

隣を歩く人にそれを悟られまいと、必死で我慢をし続けていた。



「小野寺さん、菩提寺へ行く前に行ってみたい場所があるんですけど…」


遠慮がちに声をかけられ振り向いた。

彼女は俺の顔を見るなり、「やっぱりいいです…」と断った。


その言葉から、彼女が行きたがった場所が特定できた。

自分の弱さと決別する為にも、是非ともそこへは行かなければならないと決めていた。


「君が行きたいと望む場所は分かるよ。それはきっと、俺が行こうと思っていた場所と同じだろうから…」


駅から続く商店街の中を歩き出した。
彼女は無言で俺の顔を見上げ、不安そうな目線を向けていた。


ぎゅっと力強く手を握り締められた。
その手を握り返して、あの日と同じ道を進んだーーー。



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