恋する想いを文字にのせて…
指差された空を見上げた。
黒々とした木の枝先に、固いピンクの蕾が膨らみかけている。
「ここらじゃ今も一番先に咲き出す桜だよ。毎年きちんと害虫駆除もしているし、これから先もきっと、満開の花を咲かせてくれるだろうよ……」
後味の悪い出来事だったけど、今も誰1人としてあの日のことを忘れている者はいない。
新参者は直ぐにでも町内の輪に入れる様にしているし、何事かあれば直ぐに相談に乗るようにもしている。
あの事件を風化させない為にも、町内でいろいろと取り組んでいるのだ…と教えてもらった。
「漠君がここへ戻って来たら、両親の為に建てられたんだと分かるように、観音様の手に本を持たせた。君は出版社で本を作っていたろう。今もまだ、その仕事を辞めてはいないのだろう?」
「………はい……辞めていません………」
そう言いながら涙が零れ落ちた。
辛い思いをしていたのは、俺だけではなかった。
この場所に住み続けている全ての人が、今も事件を忘れずにいてくれる。
父や母の存在を覚えていてくれる。
あの桜の木も、大切に手入れされているーーーー。
しゃがみ込むように膝を折った目の前に、木で出来た観音像の静かな微笑みを浮かべた顔があった。
母の面差しに似た観音様を見ながら、声を殺して泣いた。
あの夏の日、泣くのも忘れるくらい呆然と部屋の中に佇んだ。
鉄の臭いはいつまでも鼻の奥から漂ってきて、シャワーを浴びても体を洗い続けても取れない様な気がした。
黒々とした木の枝先に、固いピンクの蕾が膨らみかけている。
「ここらじゃ今も一番先に咲き出す桜だよ。毎年きちんと害虫駆除もしているし、これから先もきっと、満開の花を咲かせてくれるだろうよ……」
後味の悪い出来事だったけど、今も誰1人としてあの日のことを忘れている者はいない。
新参者は直ぐにでも町内の輪に入れる様にしているし、何事かあれば直ぐに相談に乗るようにもしている。
あの事件を風化させない為にも、町内でいろいろと取り組んでいるのだ…と教えてもらった。
「漠君がここへ戻って来たら、両親の為に建てられたんだと分かるように、観音様の手に本を持たせた。君は出版社で本を作っていたろう。今もまだ、その仕事を辞めてはいないのだろう?」
「………はい……辞めていません………」
そう言いながら涙が零れ落ちた。
辛い思いをしていたのは、俺だけではなかった。
この場所に住み続けている全ての人が、今も事件を忘れずにいてくれる。
父や母の存在を覚えていてくれる。
あの桜の木も、大切に手入れされているーーーー。
しゃがみ込むように膝を折った目の前に、木で出来た観音像の静かな微笑みを浮かべた顔があった。
母の面差しに似た観音様を見ながら、声を殺して泣いた。
あの夏の日、泣くのも忘れるくらい呆然と部屋の中に佇んだ。
鉄の臭いはいつまでも鼻の奥から漂ってきて、シャワーを浴びても体を洗い続けても取れない様な気がした。