恋する想いを文字にのせて…
『小野寺 漠 様』


美しい文字で書かれた名前を目にした瞬間、誰のことか…と考えてしまった。

そこに書かれてある名前が自分のものだと気づくのに、少々時間がかかった。




「あ……そうか。俺の名前か……」


おかしいくらいに、そう実感した。

封筒の表に書かれた文字に目をやり、くるりと裏返した。



『最上 来未』


「なんて読むんだ?「もがみ くみ」か?」


近頃の名前は一遍で読めないものが増えている。

名付け親の趣向も変わってきているせいか、字面通りに読めないものが多過ぎる。


「そもそも、この最上って人は誰だ?俺の知り合いにこんな名前の奴いたか?」


漫画家の先生から送り返されてきた手紙を目にしながら考えた。

明らかに知り合いではなさそうな人からの手紙を、俺は読まずに放った。



そのまま仕事を始めて気づくと夜中。

部署の連中は既に退社しており、室内に残っているのは自分一人。



「あーあ。今日も俺が最後か…」


独り者というのは気楽な反面、寂しいものだなと思う。

早目に仕事を切り上げたからといって、家で待つ者がいる訳でもない。

風呂上がりに缶ビールを飲んで寝るだけ。

そんな寂しい生活を送るくらいなら社内で仕事をしている方がどれだけ楽しいか知らん。


「…まっ、それも負け惜しみに近いもんがあるけど…」



嫁なし、子供なし、親もなし。

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