恋する想いを文字にのせて…
文字の上だけでもいいので、これからもお会いできることを願います。

その日までどうかお元気でお勤め下さい。

風邪など引かれないよう、お体に気をつけて過ごされますように………


最上 来未 』




いろいろな職種の人間から手紙を受け取ることはある。

けれど、彼女のように印象深く残った人はいない。

じんわりと胸の奥が温まり、身体の芯が熱くなる。

何処か恋愛感情に似た想いを抱いてしまう。

文字だけしか知らない女性に対し、どうしてこんなふうに深く思ってしまうのか。



「馬鹿だな。俺も…」


独身が気楽でいいなんて強がりだと、彼女の手紙は思い知らせてくれる。

そんな苦い気持ちを、手紙の中で少しだけ柔げてくれる。


心温まる思いでいるのはお互い様だ。

むしろ、自分の方が深いに違いない。

彼女とはこれからも文字だけの付き合いが続いていくのだろうか。

実際に会って話す機会など、持ってはいけないのだろうか。

編集者と読者としてではなく1人の男女として出会えていたら、間違いなく恋に落ちている仲だろうに。



切なく苦い気持ちを抑えながら鉛筆を握る時、どうかこの言霊が彼女に届いて欲しいと願う。

恋しい気持ちを乗せた手紙が彼女の手の中で花開き、向こうも俺自身に関心を寄せてくれること祈りながら1人取り残されたオフィスビル内で黙々と鉛筆を走らせたーーー。



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