恋する想いを文字にのせて…
小野寺さんの話を聞きながら、漫画の背景をあれこれと思い出していた。

津軽芽衣子なら住みそうだと思う場所で、きっと暮らしているに違いない。


「面白い人と同居してらしててね、俺はいつもその人の餌食にされるんです」

「餌食…？同居人の方の？」

「そう。ちょっと困惑する時もあるんだけど憎めない人なんです」

「へぇー。楽しみですね」


そう言いながらも心はあまり浮き立たなかった。

出かけにあった騒動に、少し心を暗くしていた。


カタカタ…と揺れる電車内で、話があまり弾まなかった。

私を気にしているような小野寺さんの視線が痛くて、まともに顔を上げられなかったせいだ。



「……何かありましたか？」


不意に投げかけられた質問にびくっ！となった。

彼に目を向けて、必死に笑みを作った。


「いいえ何も。ちょっと緊張してるのかもしれません。憧れ続けてきた人にお会いするから…」


正論のような言葉を言った。

疑われる様な視線を向けられるのが怖くて、直ぐに下を向いた。



「そうですか…。そうですよね。来未さんは長年のファンだから……」


納得する様な言葉を言って、小野寺さんは視線を逸らした。

わざと外に目を向けて、こっちを見ないようにしている。



まるで、彼の手紙に書いた漫画のようだと思った。

あの高校生の男女も今の私達と同じように気まずかったのだろうか……。

< 78 / 179 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop