恋する想いを文字にのせて…
「はぁー。いい空気ですねー!」


思い切り背伸びをして、小野寺さんは胸一杯に空気を吸い込んだ。

背の高いビルも見えない駅前には、まるで田舎のような風景が広がっている。


「津軽先生の家はここから歩いて30分くらいかかるんですが…。どうします?タクシーで行きますか?」


「いえ、折角だから歩きましょう!空気も新鮮だしその方が気持ちいいので」


二つ返事で答えると、小野寺さんはじゃあ…と言いながら歩き始める。

駅前の通りを渡り、眼前に見える山の方へと向かう。

道路の両脇には田畑が広がり、用水路と思われる小川には綺麗な水が流れていた。



「…素敵な場所ですね……。津軽先生の漫画の舞台そのものみたい……」


私の言葉を聞いて、前を歩いていた人は急に振り向いた。

ドキン…と胸が打ち震えて、彼の顔を見つめた。


「俺も一番最初に此処へ降り立った時、今の来未さんと同じことを思ったよ。ほら、初めて読んだ漫画のこと手紙に書いただろう?あの場所みたいだなぁ…って」


「ああ、あの先生の故郷が舞台だっていう話ですね。…そっか。こういう風景なんだ」


改めて周囲を見回した。
遠目に見える山の谷間には、根雪が白く残っていた。


「先生にしてみたら此処は第2の故郷なのかもしれないね。本当の故郷は九州らしいから、そう簡単には行けないだろうし…」

「そうですね…。故郷は特別だけど、遠くにあるからこそいい…って場合もありますから」



< 80 / 179 >

この作品をシェア

pagetop