恋する想いを文字にのせて…
10通目、遠き、故郷へ向けて
ドアベルを鳴らすと、いつもの様にあの人の声がした。


「どこのどなた?」


低音気味の声は、若干中性的だ。
初めてこの家に伺った時も、津軽芽衣子の夫かと思ったくらいだ。


「出版社の小野寺です」


「おのでら?…さぁ誰だったかしら…?」


相変わらずな出迎え方にムッとする。

初めて電話をかけた時もそうだったが、この人はどうも人をからかって遊ぶ癖があるらしい。


「萌子さん、いい加減にして下さい!お客様と一緒なんですから早く開けてくれませんか!」


ドアに向かって怒鳴る俺をギョッとしながら最上来未は見ていた。
ドアの中にいる人は、ガチャリ…と鍵開けながら呟いた。


「ちぇっ、つまんない人ね〜」


毎度同じ言葉を吐きながらドアが開く。

中から顔を出したシルバーグレーヘアの女性は、トレードマークの銀縁丸眼鏡をかけていた。

その奥にある黒い目が素早く彼女の姿を捉えた。


「あら…」と小さく声を発し、大きくドアを開けて出てきた。




「貴女が芽衣ちゃんの大ファン?」


2オクターブくらい跳ね上がった声に、最上来未が一瞬息を飲んだ。



「は、はい…。あの……も、最上来未と申します…」


よほど狼狽えたのか、彼女は声を震わせながら自己紹介をした。


「…来未さん、そんなに緊張する必要はないよ。この人は津軽先生じゃないから」


そう説明する俺の腹をシルバーグレーヘアの女性が突いた。

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