恋する想いを文字にのせて…
「う〜ん…」

「そんなシーン描いた〜?」


2人して悩まれている。
こんな時にタイトルが思い浮かんでこないなんて…と、自分の記憶力の悪さを呪った。



「長い話ではなかったと思います。一話完結で、そのシーンだけが妙に印象深く残ってて……」


ストレートの黒髪の女子も、ちょっとくせ毛の男子も魅力的だった。

高校時代の憧れは、全てあの漫画の中にあったと言っても過言ではない。


「他にもシャイ過ぎる男の子がデート中にわざとテーブルの上にパスタのイカを落として、それを食べるシーンもお気に入りでした。初めてのデートに緊張した女の子が、先にナポリタンのウインナーを落としてしまったのを庇うようにして……」



「あっ!」


叫ぶ様な声を出して、お姉さんが席を立った。

その様子を見て、小野寺さんがニヤついた。



「ちょっと待ってて!」


走り去る背中を見ながら、何がどうしたのか分からなかった。

分からなかったのは私だけで、先生も小野寺さんもその理由を知ってるみたいだった。


落ち着き払った様子でお茶を飲む2人に視線を配った。

その視線に気づき、小野寺さんが微笑んだ。



「萌子さんは思い出したみたいですよ。ねぇ?先生」


「そうね。あのシーンはお姉さんの実体験だったもの」


「…えっ⁉︎ それどういう事ですか⁉︎ 」


きょとんとする私に目を向けて、津軽先生は笑った。

ますます意味の分からない私は、瞬きを繰り返すのみだったーーー。


< 89 / 179 >

この作品をシェア

pagetop