恋する想いを文字にのせて…
小野寺さんが部屋を出て行った後、萌子さんは私に聞いた。


「最上さんの故郷はどこ?都内なの?」


メガネの奥の瞳がじぃっ…とこっちを見つめている。
その瞳から目を逸らし、「いいえ」と首を横に振った。


「私の故郷は本州の外れなんです。大きな川がある地方で…驚くほどの田舎です…」


瞼に浮かんでくる景色を思い出した。

お二人は自分達の故郷も思い描いたかのようにそれぞれの意見を述べた。


「田舎かぁ〜いい響きねぇ〜」

「田舎が故郷なんて羨ましいわ。私ももう一度、自分の生まれた故郷に帰ってみたい…」

「懐かしいわよねぇ……」


うっとりとする2人にとって、故郷はいい思い出のある場所らしい。
でも、私にとっては、今も昔も敷居の高い場所であることには違いない。




「私は…自分の故郷は嫌いです……。偏見という名の狭い考え方の人ばかりがいる場所だから……」


ぐっと嚙みしめる奥歯がグリッと鳴った。
噛みしめる顎の力を抜いて、口角を持ち上げた。


「だけど…この間から妙に懐かしく思うこともあって……津軽先生の本を見つけてからは特に…里心がついてきたと言うか…。だから今度、思いきって帰ってみようかと思ってるんです。数年ぶりに両親にも手紙を書いて……」


「故郷にはご両親以外にどなたかいらっしゃるの?」


聞き返す津軽先生の顔を見た。
パープルのレンズカラーの奥の瞳は、興味深そうにこっちを見ている。


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