来い、恋。
今、こうやって咲和に泣き付かれているのも、『やっぱり薺は恋愛をしたことが無いんだ。ぐすん。』とかいう咲和の不安要素から来ているんだろうと思う。
恋愛というものは私には、不向きであるようにしか感じない。
メソメソしている咲和の背中をポンポンと撫でながら、そっと溜息を吐くと、今まで静かだった咲和とは反対側の方から、声が聞こえた。
「3回目。」
…え、
声が聞こえた方向、右隣を振り返ると、見慣れた横顔があった。
「溜息。3回目だなって。」
声の主は飲んでいたウーロン茶をテーブルへ置くと、からかうようにニッと笑った。
「…ああ…。この子が何故かベロンベロンになっちゃいまして……って、咲和寝ちゃいましたけど…」
言いたいことを言うだけ言って、全くこの子は本当に…。
ふぅ。とまた1つ溜息を吐くと、「あーあ。4回目だよ」なんて言葉が聞こえた。
「ごめん。町傘が呑んでたソレ、俺が頼んだやつ。」
とんでもない事を言い放った彼は、寝てしまった咲和の少し離れた所に置いてある飲み物を指差した。
いや、全然申し訳なさそうに見えないですけど。むしろちょっと面白がってるでしょう。
「サクラ君〜っ、犯人は貴方ですかっ」
バシッと肩を叩いてギロリと睨むと、だからごめんって、とやっぱり全然反省してない様子で桜葉はケラケラと笑った。
桜葉誠(オウバ マコト)。
一重、若干タレ目、常に笑顔、がトレードマークの弱イケメン(自称)。
左頬のえくぼが特徴で、外見だけ見れば普通にモテそうなのに、「いい友達」止まりで終わってしまうような、残念この上ない優しさを持つ男だ。
「俺がウーロンハイ頼んだのに、町傘が勝手に呑んだんだよ。」
「今日はお酒抜きって話じゃないですか。」
「周り見てみ?車持ちの奴とウメ以外、皆呑んでるから。」
言われた通りに周りを見ると確かに、明らかに顔が赤い人や、ビールらしき金色の飲み物をグビグビと飲み干している人を容易く見つけられた。