来い、恋。
矢島陽(ヤシマ ヨウ)は、つい2ヵ月前まで私の恋人だった人。今日ここには来ていないけど、彼も私と同じ2年生だ。

当時の私達は、付き合っていたことについては聞かれたら教える、というスタンスで過ごしていた。
そのため、これといって目立つ方ではなかった私達の関係を知っている人は少なかった…はず。


別に、隠してる訳じゃなかったから、知られてる事に関してはいいんだけれど。なぜこのハンドタオルをこの人が持ってるの。そしてなぜ陽に貰ったものだと知っているの。

ハテナが飛び交う私の頭。
降参、とでも言うように両手をあげると、彼は私の考えていることが分かったのか、得意げな顔をした。


「町傘がさっき、振り回してたから回収した。」
この八島タオル燃やしてくれるわ!とか言ってたよ。と、咲和の(だいぶ無理のある)声真似付きで披露してくださった。


…咲和いぃ…


私の膝でスヤスヤと寝息を立てている咲和のほっぺを軽くつまむ。


「…ま、俺的には、なんで何ヶ月も前に別れた男から貰ったタオルを後生大事にしてるのかってことが、すっごい気になるね。」


なにか見え透かしそうな彼の目から視線を逸らすと、はは、と乾いた笑い声が聞こえた。


「そんなに好きだったんだ?」


「…や、分かりません。…」


なんでこんな男に話してんだろうと自分でも不思議に思うくらい、別れた経緯や、好きが分からないこと、恋愛とか意味不明ですよ糞野郎。などなど、この男に話してしまっていた。誰かに弱音を吐きたくなるくらい、切羽詰まってたんだなあと、今更気が付く。

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