Pathological love

何度も聞き返したが、周りの声で聞こえない私は、そっと近寄って、耳を澄ませた。

何故か、一向に話し掛けてこないので、彼の瞳を探すと、連理は呆れたように溜め息をついた。

スッと私に手を伸ばし、顎に手を掛け、そのまま少し上に傾ける。

驚きで見開く私の瞳にさえお構い無しで、伏せ目に私を見ると、ゆっくりと唇の端をなぞった。

私の唇は彼の親指で、だらしなく歪められ、半開きの口は、バカみたいにそのままだ。


「子供じゃないんだから………チョコつけてんな。」


「ごっ…………ごめ………」


拭った親指を、何の躊躇いもなくペロッと舐めると、連理は微かに笑った。


ドクンッ………


その刹那、私の中の眠っていたケモノが動き出した。


あの日以来、もう、感じる事はないと思っていた私の心は今、また、アレに気づいてしまった。


鳴り止まない、この胸の高鳴りも、


時折感じる、切ない胸の苦しみも、


失いたくないと、切に願ってしまう、浅はかな思いも、


全ては、一つを表している。


私は……






私は、この人が好きだ…………………。





ずっと、ずっと、気付かない振りをしてきたのに、あなたはこんな簡単な事で、私を見えない糸で縛ってしまう。


恋は盲目とは、よく言ったものだ。


悪い人だと、分かっていても止められない。


まるで、ドラッグの様に私の身体を蝕む。


この病には薬はない。


ただ、自己治癒するか、堕ちる所まで堕ちるか。


それなら私は、後者を選びたい、私にとって、これが最後の恋になるなら…………。


お母さん………ごめんね。


私は、お母さんの言う通りのいい子には、なれそうにありません。


< 107 / 299 >

この作品をシェア

pagetop