Pathological love
決定的な場所に近づくに連れて、今まで彼に感じたことの無い嫌悪感が、一瞬にして私の心と身体に広がった。
「やめてっ!!!」
気がつくと、私の口は無意識に叫んで、私の手は彼を拒絶していた。
(私………もう、斎藤さんとはダメなんだ………。)
自分の気持ちに、また思い知らされる………。
抵抗していた力が一気に抜け斎藤さんを見上げると、涙が一筋、彼の頬を伝った。
「………令。」
私は、自分の罪深さを思い知った。
「すまない………。」
「どうしたんですか?………斎藤さんらしくないです。」
彼は、私の乱れた服を軽く直すと、離れてソファーに座った。
「ルールを破るけど、………少し私の話をしてもいいかな?」
「はい………私もそのつもりでしたから………。」
斎藤さんは、一つ深呼吸をしてから、俯き加減に掌を組んだ。
「…………………妻とは、政略結婚だったんだ。当時、妻には愛する人がいて、しかし、家の為に彼と別れて私と結婚した。」
「…………そうだったんですか。」
「子供を産んでから暫くして、妻は浮気をし始めた。相手は、その別れた男だった。俺は、仕事に没頭していて気づきもしなかった。政略結婚とはいえ子供もいたし、夫婦仲も悪く無かったから、俺なりに幸せだと思っていたのに………。」
言葉に詰まる彼を放っておけなくて、隣に座り背中に手を置いた。
「全く情けないよ……。」
「………大丈夫です。」
斎藤さんは、涙を拭うとまた話し出した。
「妻の浮気を知って、思い悩んでいた時だった………君に出会ったのは。俺にとって君はまるで、悪魔の様で、救いの神の様でもあった。君との時間は、唯一心が安らげる時間となった。」
私は、初めて彼の話を聞いて、自分の不純な動機が恥ずかしくなった。
でも、私も斎藤さんと同じで、足りない何かを埋めていたのかも知れない。