Pathological love
「今日、離婚届を渡されたよ……養育権は放棄するそうだ。何か、いつもギリギリの所で家族の形を保っていたのに、全てがどうでもよくなった………。そしたら、無性に君に会いたくなったんだ。君の体温に触れると安心出来そうで………。」
下を向いて震える肩を、横から腕を伸ばして抱き締めた。
「斎藤さん………ごめんなさい。私、好きな人が出来ました。もう、恋愛なんてしないと思っていたんですけど…………きっと、彼と上手くいく事はないと思います。訳ありの関係だから…………でも、これが私の最後の恋だと思って、やれるだけやってみたいんです。だからー」
「会うのは今日で最後か。」
「………………はい。」
“最後”の言葉を言う前に、彼の方が“最後”と言ってくれた。
いや、言ってくれたんじゃない。
私が言わせたんだ。
なんて、最後まで狡い女なのだろう。
「はははっ…………ダブルでフラれちゃったな。」
「斎藤さん…………私は、あなたと出会えて良かったです。私には、あなたが必要でした。本当に感謝しています。」
「これ以上、泣かせるような事は言わないでくれ………。」
斎藤さんは涙目で笑いながら、私の腕を解いた。
「………それじゃあ最後に、乾杯しようか。それぞれの新たな旅立ちに。」
「無理しないでください。」
「いや、君に話したら何だかスッキリしたよ。でも、そう言ってくれるなら、最後にお願いしてもいいかな?」
「何ですか?」
「少しの間でいいから、ただ、抱き締めてくれないか………?」
斎藤さんは冗談っぽく、笑って言うから、私は余計胸が痛くなった。
「私が役に立つのなら………喜んで。」
私達の唯一の繋がりは、この夜、終焉を迎えた。