Pathological love

引っ掛けるだけで、そのつもりは全くなかった。

もういいかとケンを見ると、明らかに挑発した眼差しで俺の行動を見ていた。


(まさか、断る気じゃないでしょうね?)


まるで、そう言っている様な目だ。

ここまで来たら、もうくだらない意地しか俺には残っていなかった。


「何処に行きますか?」


「私の父が会員になっているので、クリスタルホテルのスカイラウンジなんて、どうですか?」


「………いいですね。」


引くに引けない俺は、女の腰に手を添えて、クラブを後にした。


クリスタルホテルの会員なんて、恐らく社長クラスの父親に違いない。

クラブでの出会いにしては上等なのかも知れないが、やはり、気分はのらないままだった。


「今日は、素敵な夜景が見れると思います!楽しみですね?」


「………ええ、そうですね。」


ホテルのロビーを抜けて、ガラス張りのエレベーターに乗ると、そこからは綺麗な夜景が広がっていた。

少しずつ小さくなっていく人や建物を、遠くに眺めていると、隣の女が肩にもたれてきた。


「クラブなんて下品な方が多いので、友達の薦めでも今まで行かなかったんですけど…………今日は、行って良かったです。だって、秋山さんに会えたんですもの。」


甘い言葉を期待して、俺を見上げる女に、俺は虫酸が走る思いがした。


「………そうですか。」


張り付いたような、作り物の笑顔を振る舞うと、女は頬を染めて、より一層俺の腕に絡んできた。


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