Pathological love
エレベーターを降りて、スカイラウンジへ上がるエレベーターに乗り換える。
暫く降りてくるのを待っていると、遠くから一組のカップルが歩いていることに気づいた。
絨毯張りの廊下を、静かに音を立てて此方に向かって来る。
男は中年の紳士で、とてもスマートでお洒落な雰囲気を醸し出しているが、表情に覇気が無かった。
後ろで見え隠れする女性はもしかしたら、訳ありなのかもしれない。
黒いエナメルのハイヒールだけが、時折姿を見せた。
エレベーターの階層表示に視線を戻すと、直ぐ上の階まで降りて来ていた。
「もう直ぐですね?」
笑顔で見上げる女に小さく頷いていると、隣のエレベーターにさっきのカップルが並んだ。
どうやら下に降りるらしい。
二つのエレベーターが同時に到着し、一歩踏み出した時だった。
横目で隣を見るなり俺は、エレベーターを飛び出していた。
ガダンッ!!
エレベーターの閉まり始めた扉に、片手を挟むと、無理矢理押し開いた。
「連……理………?」
驚いて目を丸くした令子が、俺を見つける。
「で、あんたは………どちら様?」
彼女には答えず、俺は一緒にいる男を睨みつけた。
外野が何やら騒いでいるが、俺の耳には何も入って来ない。
ただ目の前に居る、彼女に寄り添っているこの男に、沸き上がる激しい苛立ちを抑えられなかった。