Pathological love

エレベーターを降りて、スカイラウンジへ上がるエレベーターに乗り換える。

暫く降りてくるのを待っていると、遠くから一組のカップルが歩いていることに気づいた。

絨毯張りの廊下を、静かに音を立てて此方に向かって来る。

男は中年の紳士で、とてもスマートでお洒落な雰囲気を醸し出しているが、表情に覇気が無かった。

後ろで見え隠れする女性はもしかしたら、訳ありなのかもしれない。

黒いエナメルのハイヒールだけが、時折姿を見せた。

エレベーターの階層表示に視線を戻すと、直ぐ上の階まで降りて来ていた。


「もう直ぐですね?」


笑顔で見上げる女に小さく頷いていると、隣のエレベーターにさっきのカップルが並んだ。

どうやら下に降りるらしい。

二つのエレベーターが同時に到着し、一歩踏み出した時だった。

横目で隣を見るなり俺は、エレベーターを飛び出していた。



ガダンッ!!



エレベーターの閉まり始めた扉に、片手を挟むと、無理矢理押し開いた。


「連……理………?」


驚いて目を丸くした令子が、俺を見つける。



「で、あんたは………どちら様?」



彼女には答えず、俺は一緒にいる男を睨みつけた。

外野が何やら騒いでいるが、俺の耳には何も入って来ない。

ただ目の前に居る、彼女に寄り添っているこの男に、沸き上がる激しい苛立ちを抑えられなかった。



< 130 / 299 >

この作品をシェア

pagetop