Pathological love
何もかも、あの時のまま。
ああ、そうだったな。
私を見つめる、この瞳が好きだったんだ。
一気にあの時の切ない思いが蘇ってくる。
好きだった。
大好きだった。
私の全てだった。
滲む視界を振り払って目を反らした。
「令………。」
私を呼ぶこの声も、何度も夢で聞いて、何度も泣きながら目を覚ました。
「やめてください………もう、呼ばないでください。」
長い間、斎藤さんにそう呼ばせて、私は満たされない何かを埋めていたのかも知れない。
どこまでも狡くて嫌な女だ。
こんな私じゃ、誰も助ける事なんて出来ない。
「………妻とは別れたんだ……今でも君を愛してる。遅くなったけれど、俺と結婚して欲しい。」
徳永さんが隣に座り、私を優しく抱き締める。
押し当てられた彼の胸に触れると、あの頃とは全く別の煙草の香りがした。
吹っ切った振りして、未だに彼と同じ煙草を止められなかった自分が滑稽だった。
長い間、心の何処かで待ち望んでいた筈の温もりに触れたのに、私の心臓は驚くほど冷静に動いている。
「フッ………フフフッ…………」
「………………令?」
「徳永さん。もう少し早く迎えに来てくれてたら、バカな私は、簡単にあなたに夢中になったかも知れません。でも、もう私はあの頃の何も知らない子供じゃないんです。あなたのお陰で、やっと大人になれたみたいです。」
「令、待ってくれ………ー」
彼の胸を押し離して、私は真っ直ぐ徳永さんを見つめた。
「今、好きな人がいるんです。一緒に居ると安心できて、気を張らなくていい人です。彼が私の助けを待ってる。私………約束したんです。助けがいる時は、必ず力になるって。彼が私を救ってくれたように、私も彼の助けになりたいんです。どうしたらいいかはまだ分からないけど、とにかく逃げないで正面から向き合ってみようと思います。」