Pathological love
これで一体、何杯目だろうか。
味の感じない酒は、スルスルと俺の中に水の様に入っていく。
身体はフラフラしているのに頭だけは妙に冴えて、全く酔えない。
酔えない酒に意味なんてない。
こんなんじゃまた、今夜も眠れそうにない。
令子とケンカ別れしたあの日から、俺はよく眠れていない日々が続いていた。
会わなくなって一週間、寝てもウトウトとするくらいで、それを繰り返して朝を迎える。
「こんな安酒じゃ、全く酔えねーし。」
「えっ?何か言いました?秋山さん。」
「いや、俺、先上がるわ。後は皆で楽しんで。」
酔えない理由を酒の所為にして、俺は席を立った。
「えぇ~!!秋山さん!!もう、帰るんですかぁ?つまんないですぅ。」
「悪いな。ずっと仕事で詰めてたから、寝不足なんだよ。じゃあ皆、今夜は楽しんで!」
事務所の近くの居酒屋でやっていた、同僚との打ち上げを抜けて、Alternativeへと向かった。
いつものカウンターに座り、いつものお酒を頼んで飲んでみる。
「いつもの味な筈なのに……美味しくない………。」
「お口に合いませんか?お作りし直します。」
小声で呟いた筈なのに、マスターの耳にはしっかり届いていた様だ。
「いや、いいんだ……俺の舌がおかしいんだ。」
「何かあったんですか?顔色が少し悪いように見えますが。」
「仕事が忙しくて、単なる寝不足だよ。」
「そうですか、それなら今日はもう、お帰りになられた方がいいのでは?」